就業規則作成・見直し
就業規則作成・見直し

1 就業規則の重要性

労使トラブルがおき、ひとたび紛争になれば、問題になるのは就業規則です。
まして、裁判になれば、裁判所は就業規則をひじょうに重視します。
にもかかわらず、同業他社やひな形の就業規則を書き写したものを使用している企業が多くみられます。
また、その大切な就業規則が法改正に合わせて見直しされていなかったり、
会社の労働時間や休日等の実情に合わないものになっていることの多いのが現状です。
ひとたび、未払い賃金問題等の労働トラブルが発生したら、過去3年間にわたって多額の残業料を払わざるをえなくなようなリスクの高い就業規則もみられます。
いざという時、役に立たない就業規則、あるいはリスク一杯の就業規則では意味がありません。
就業規則を作成したい、見直したいと思われている経営者様はお気軽にご相談下さい。

2 就業規則作成・見直しのポイント

就業規則の作成や見直し時に重要となる点を抜き出してみました。
この他にも業種や会社のおかれている状況に応じて必要な項目が多くありますので、
個別にご相談いただければ幸いです。

◇社員の定義を明確にする。
正社員、嘱託社員、契約社員、パートタイマー等、さまざまの社員を明確にする。
正社員以外は本則とは別の規則あるいは労働契約によることを明確にする。

◇管理監督者の取り扱いを明確にする
管理監督者については、労働時間、時間外労働の手続き・割増賃金(ただし深夜労働は除く)、
休日労働の手続き及び割増賃金が適用されない旨の規定を明確にする。
管理監督者か否かはグレイな面が残るだけに、管理監督者性が否定された場合の規定も記載します。

◇採用選考と健康診断
社員となった者は心身ともに健康な状態で労務を提供する義務を負うわけですから、採用時の健康診断は重要と言えます。
健康診断書(提出前3ヵ月以内に作成されたもの)の提出を持って替えることが可能です。
採用時の健康診断について質問を受けることが多いですが、採用した者が心身ともに健康であるかどうかは会社側のリスクの問題であるだけに、慎重にして適切な対応が必要と言えるでしょう。

◇身元保証人について
不祥事が起きた時のために、身元保証人をとっておくことは重要と言えるでしょう。
身元保証人を2名とし、1名は両親、兄弟姉妹あるいはそれに代わる人としておくのが賢明と言えます。
いざという時にどこにいるかわからない、あるいは話しにのってくれないような身元保証人では実効性がありません。

◇休職期間の取り扱いについて
休職期間を1年とか2年とかで規定している就業規則がみられます。
昔は結核による休職が多くみられたことの影響があるようです。
会社としては、社員が休職の間、仕事のやりくりをしたり、社員を新たに採用するといいったことが必要です。
休職期間は長くても6ヶ月くらいとする会社が増えています。
現在は、精神疾患による休職が多いこともあり、休職・出社を繰り返されるリスクがあります。
同一または類似の事由により休職した場合、通算規定を設けることが重要となってきています。
また、主治医は本人の求めに応じて、診断書を書く傾向にあります。
復帰に際しては、「会社指定」の医師の診断が必要なことも明記しておく必要があります。
休職と復帰に関するトラブルは解雇問題に発展する可能性があり、
就業規則面でもきめ細かな対応が必要になります。

◇定年の定めについて
高齢者雇用安定法が平成18年に改正されました。
さらに、平成25年4月に高齢者雇用安定法が改正施行され、 原則65歳までの雇用が義務づけられました。

令和3年4月からは70歳までの就業促機会の確保が努力義務となりました。

しかし、
会社の実情に合った定めが可能であり、早急に見直しが必要な会社も多いのが現状です。

◇始業時刻、終業時刻について
始業時刻とは、その時刻には指定の場所で命令に従った労働を提供することを約束したものであり、終業時刻とは、その時刻までの労働提供を約束したものであることを明確にしておく必要があります。始業時刻までに仕事を始めていないのは遅刻ということにします。

◇振替休日と代休の違い
「振替休日」とは、あらかじめ休日と定められた日を労働日とし、
その代わりに他の労働日を休日とすることです。
「代休」とは、休日労働を行わせた後に、その代償措置として、以後の労働日の労働義務を免除することを言います。
「代休」の場合、労働基準法上の割増賃金を払う必要があります。
「振替休日」と「代休」の区別をしていない就業規則、あるいは、運用があいまいになっている
会社の多いのが現状です。

  ◇無断欠勤が続いた時は「当然に退職」としておく
無断欠勤の場合の解雇予告の除外認定は14日以上となっています。
就業規則でも、14日以上無断欠勤が続いた場合は、諭旨解雇又は懲戒解雇とする規定を設けているのが通例です。しかし、仮に除外認定がおりたとしても、解雇の意思を相手方に到達させなければいけないことに変わりがありません。そこで、就業規則の退職事由に、「無断欠勤の連続は退職の意思表示」とみなす旨を明記しておいて、一定の条件に該当したので、(「解雇」ではなく)「当然に退職」とする、のが実際的です。

<規定例>
第〇条 退職
社員が休日も含めて連続14日間無断欠勤をし、その間に連絡がとれない時

◇給与の支払いは必要に応じて「手渡し」できるようにしておく

退職した社員が健康保険証や制服など、会社からの貸与物をなかなか返却しない場合があります。もっと悪質な場合では、会社に損害を与えたまま出社しなくなるといったことも起こり得ます。こうした場合に備えて、給与を手渡しにできる規定を設けておくといいでしょう。

(参考)労働基準法施行規則 第7条の2
使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払いについて次の方法によることができる。
同一号 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金の振込み

◇住宅手当一律支給の問題
住宅手当を一律〇円とする、といった規定が多くみられます。
この場合、割増賃金の計算に含む必要があります。
「住宅手当の額は賃貸家賃月額の〇〇%とする。ただし、〇万円を上限とする。」
といった形にすることで、割増賃金の対象からはずすことができます。
住宅手当を支給することの可否も含め、検討が必要となります。

◇退職金

退職金を支払うかどうかは会社の判断によります。
しかし、退職金制度があるなら、就業規則に載せる必要があります。
いったん作った退職金制度の不利益変更は簡単でないだけに、
退職金制度に関する考え方とともに、将来的な財源の問題も含めて十分な検討が必要です。

(参考)
退職金制度を作るのは抵抗があるが、実質的に退職金を出している会社の場合、
「退職功労金」という形の規定を設けることも可能です。

第〇条退職功労金

1 社員が退職するにあたり、在職中の功績がとくに顕著であると認められた者、
または会社がとくに必要と認めた者に対しては、退職功労金を支給することがある。
2 退職功労金の額は、取締役会の決議を経て、功績に応じてその都度決定する。

3 就業規則の実施・運用上の留意事項

その他に、終業規則の実施、運用上の留意事項について記載しています。
立派な就業規則を作成しても運用の仕方を誤ると大きなリスクになります。

◇過半数代表者の選出方法(意見書の提出に関して)
就業規則の労働基準監督署への提出については、「意見書」が必要です。
意見書は事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、
労働者の過半数を代表する者を選出し、意見書の提示を受けることが必要です。
過半数代表者となることができるものは、
@労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと、
A就業規則の作成・改正を行うための過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで、
投票、挙手などにより選出すること、が必要です。
過半数代表者を安易に決めて「意見書」あるいは「36協定」等を提出している企業が多くみられます。
ひとたび労働トラブルになった時、過半数代表者の選出の仕方が問題になれば、抗弁のしようがありません。

正しい取扱いに基づき、実施すべき事柄です。

◇労働条件通知書兼雇用契約書の策定と締結について
新規採用者は、入社前に会社とのあいだで個別の雇用契約を締結することが必要です。
具体的には、下記の労働条件を明示することが必要です。

@労働契約の期間
A就業の場所および従事する業務
B始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
C賃金の決定、計算および支払方法ならびに賃金の締切りおよび支払時期
D定年、退職となる事由、退職の手続き、解雇の事由、解雇の手続き

これらは厚生労働省のひな型に基づき、会社の制度にあった形で作成することが可能です。
また、非正規従業員の労働条件通知書兼労働契約書の調査が入ることがあります。
その際、賞与、退職金の有無、継続雇用の可否(有期雇用の場合)等が問われることを
念頭において対応しておくことが大切です。

◇労働時間
労働時間は原則として1週40時間、1日8時間と定められています。
ただし、特例事業として常時10人未満の労働者を使用する次の事業は
1週44時間、1日8時間が上限とされています。

(特例事業)
□ 商業・理容業  □ 映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)
□ 保険衛生業   □ 接客娯楽業

⇒具体的な運用の仕方についてはご相談下さい

◇みなし労働時間制

みなし労働時間制とは一定の条件を満たした場合には、「あらかじめ決められた時間働いたものとして扱う。」制度です。

事業場外みなし労働時間制
専門業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制

の3つの制度があります。

具体的な運用の仕方については会社の実情や労働の実態に合わせ、
個別にご相談の上、ご検討いただいております。

◇変形労働時間制

一定期間において、一週あたりの平均労働時間が法定労働時間(40時間)になれば、
一日8時間、1週8時間を超えて労働させることを認める制度です。
一般的に

1年単位変形労働時間制
1ヵ月単位変形労働時間制(特例事業所は週44時間労働が可能)
フレックスタイム制

の3つの形態があります。

◇賃金支払いの5原則

賃金支払いの5原則として

通貨払い
直接払い
全額払い
毎月1回以上払い
一定期日払い

が定められています。
なお、給与振込は労働者本人の同意があれば行うことができます。


4 就業規則の変更による労働条件変更について〜とりわけ不利益変更の場合〜

就業規則の変更を行うためには

@変更後の就業規則を周知させるとともに、
不利益変更を行うためには
A就業規則の不利益変更が合理的であることが必要であるとされています。(労働契約法第10条)

ア 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
イ 使用者側の変更の必要性
ウ 変更後の就業規則の内容の相当性
エ 労働組合などとの交渉の経緯
オ その他の就業規則の変更に係る事情

賃金の引下げ等、就業規則の変更には、原則として引下げの対象となる従業員の個別同意が必要です。具体的な賃金規程変更の方法、手順、個別同意の取り方等については、
専門家である社会保険労務士に相談されるのが得策です。


5  就業規則の周知について

〜「職員ハンドブック」の作成も一考〜

就業規則の有効性の判断としては周知されているかどうかが問題となります。
就業規則に経営者の思いを盛り込み、労働法上の基準を守るといった側面からだけでなく、
経営者の考えを実践してゆくものとして活用してゆくことも可能と言えるでしょう。
就業規則は法律に準拠して作成されているため、どうしても固い表現にならざるを得ません。
そこで、重要な部分を抜き出した「職員ハンドブック」を作成して、内容を平易に解説して
徹底する方法があります。


(参考文献)
「御社の「就業規則」、ここが問題です!」(北村庄吾・桑原和弘 実務教育出版)
「会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!」(弁護士 向井 蘭  日本法令)
「会社を守る 社員が安心する! 就業規則&社内ルールの作成ポイント」(下田 直人 すばる舎)
「なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?」(下田 直人  大和出版)
「人が動く!組織が変わる!「勝ち組企業」の就業規則」(下田 直人  PHPビジネス新書)

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